アルコール依存症
酒屋のオヤジをしておりましたので、アルコール依存症の人も何人も見てきました。どの人も深刻な健康障害や精神障害をきたし、経済的破綻、家庭崩壊などを引き起こしてしまいます。
わたくしは、お酒にはプラスの面もあることを否定はしませんが、マイナスの面についてその重大さを強調したいとおもいます。
アルコール依存症は死に至る病です。
ここでは、さまざまな資料をもとにまとめてみました。専門家ではありませんので、誤りがあるかもしれません。ご指摘ください。
アルコール依存症とは
大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる状態が、アルコール依存症です(厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)
アルコール依存症は脳の病気であり、意志の問題ではありません。意志の強い弱いに関係なく、意志の力でどうにかなるものでもありません。しかし、治療しなければ、最後には死に至ります。
アルコール依存症の症状
アルコール依存症の診断基準
アルコール依存症の診断には、WHOが作成したICD-10という診断基準が主に用いられています。その内容は、
- 飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感がある
- 飲酒をはじめるときや終わるとき、飲酒量などが自分でコントロールできない
- 飲酒を中止したときに離脱症状(禁断症状)が出る。離脱症状から回復する、あるいは軽減するために飲酒する。
- 飲酒量が増加していく。たくさん飲まないと酔えなくなる。
- 飲酒のために本来の生活を犠牲にし、飲酒中心の生活になる。趣味・娯楽などに興味がなくなる。
- 心身が不調になっているにもかかわらず、飲酒をやめられない。
以上の6項目のうち、過去1年間に3項目以上が同時に1カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合にアルコール依存症の疑いが強いとされます。
具体的な症状
アルコール依存症では、具体的には次のような症状が出ます。
- 不適切な言動が目立つ
怒りっぽくなる、暴力をふるう、哀願する、ウソをつく、飲酒運転をする - 社会や家庭での人間関係が破たんする
仕事に行けなくなる、家族とトラブルを起こす - 認知能力が落ちる
注意力や記憶力が低下する - 気分が不安定になる
ウツ状態になる、興奮する - 身体的な症状がでる
手のふるえ、ろれつが回らない、歩行が不安定 - こん睡状態におちいる
離脱症状
酒が切れたときに出る症状が離脱症状(いわゆる禁断症状)です。
離脱症状には次のようなものがあります。
- 手のふるえ、悪寒、寝汗、イライラ、不安、焦燥感、睡眠障害
- 吐き気や下痢、胃痛、動悸、高血圧
- うつ状態、幻視、幻聴、記憶障害
- けいれん発作
毎日のようにアルコールを多く飲んでいると、脳はその状態を「通常」だと判断するようになり、お酒が切れると逆にさまざまな症状があらわれるのです。
離脱症状がみられたら、すでにアルコール依存症になっているといえます。
アルコール依存症による心身の障害
アルコール依存症を原因とする、あるいはその影響によると思われる心身の障害を列挙してみます。
身体面
- 肝機能障害
- 食道炎、胃腸炎、胃潰瘍
- 喉頭がん、咽頭がん
- 食道静脈瘤、食道がん、胃がん、大腸がん
- 膵炎、糖尿病
- 筋炎、痛風、末しょう神経障害
- 筋力低下、骨粗しょう症
- 心筋症、高血圧、不整脈
認知・精神面
- 大脳萎縮、記憶障害、認知症、小脳障害
- ウェルニッケ脳症
- うつ病
アルコール依存症の原因
アルコールや依存性のある薬物が脳に侵入すると、脳内ではドーパミンという快楽物質が分泌されます。
ドーパミンが脳内に放出されると、中枢神経が興奮し、それが快感・よろこびにつながります。この感覚を、脳が報酬(ごほうび)と認識すると、その報酬を求める回路が脳内にできあがります。
これが繰り返されると、次第に喜びを感じる中枢神経の機能が低下し、快楽を求めてますますアルコールや薬物の量や頻度が増えていきます。
このようにして、自分ではコントロールできなくなり、アルコール依存症ができあがるというわけです。
もちろん、ドーパミンだけが原因ではなく、他に遺伝・他の疾病・環境要因等が複雑にからんで問題をむずかしくしているようです。
アルコール依存症になりやすい人
はっきり言えるのは、お酒が強い人、あまり酔わない人、お酒が好きな人がアルコール依存症になりやすいといえます。これくらいなら大丈夫という気持ちが事態を悪化させていきます。
女性や高齢者はその身体的特性から、また、お酒が弱い人についても、多量のお酒は飲めません。しかし、自分の適量を超えたアルコールを短期間でも続けて取るとアルコール依存症になる危険性があります。
そのほかに、性格や人格の要因での研究もあるようですが、ご紹介できるほどの確かな結果があるようには思えませんので、ここでは書きません。
アルコール依存症の治療
アルコール依存症の治療には、薬物療法や心理社会的療法もありますが、重度の依存症については、断酒しかありえません。しかも、断酒中でも一度お酒を口にしてしまうと、再び連続飲酒に戻ってしまうという特性があります。
お酒が手に入りやすい環境では断酒を続けることはむずかしく、入院治療を選択せざるをえないと思います。
家族がアルコール依存症の場合、家庭内での治癒はむずかしく、悪化させるおそれがありますので、早めに専門機関あるいは自治体の支援機関などに相談すべきです。
なお、最近ではアルコール依存症は初期から重症になるまで段階があり、その段階に応じた治療をすべきだという考え方もされるようになっているようです。それによると、必ずしも断酒によるのではなく、初期の段階では酒量をへらすことを目標とするという治療法もあるようです。
アルコール依存症の予防
適度な飲酒量
アルコール依存症の予防策としては、とにかく飲まないことです。しかし、現実的ではありません。
「節度ある適度な飲酒量」として厚生労働省が示しているのが、1日平均純アルコールで約20g程度です(厚生労働省「健康日本21(アルコール)」)。
実際のお酒の量に換算すると次のとおりです。
(中瓶1本500ml) |
(1合180ml) |
(ダブル60ml) |
(1合180ml) |
(1杯120ml) |
|
また、アルコール依存症になる危険のある飲酒量として、1日に平均純アルコールで約60gを越える量としています。
これをお酒の量に換算すると、ビール中瓶1本500ml 3本以上、清酒1合180ml 3杯以上となります。それほど大量というわけではないので、注意が必要です。
女性・高齢者の場合は、おおむねこの半分と考えてよいでしょう。
これらは絶対的な基準ではありませんので、自分の適量を知ることが大事です。
もちろん、週に何日かはお酒を飲まない日をつくることも大事です。
セルフチェック
アルコール依存症になる危険性を自分で判定できるテストもあります。
こちらを参照ください → アルコール症スクリーニングテスト AUDIT
その他のアルコール問題
お酒は、アルコール依存症以外にもさまざまな問題を引き起こします。ここでは、それらを列挙するだけにとどめます。
本人への影響
身体的影響
アルコール依存症に至らないまでも、お酒の飲みすぎは、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。前述の「アルコール依存症による心身の障害」を再掲します。
- 肝機能障害
- 食道炎、胃腸炎、胃潰瘍
- 喉頭がん、咽頭がん
- 食道静脈瘤、食道がん、胃がん、大腸がん
- 膵炎、糖尿病
- 筋炎、痛風、末しょう神経障害
- 筋力低下、骨粗しょう症
- 心筋症、高血圧、不整脈
認知・精神的影響
「アルコール依存症による心身の障害」にも前述しておりますが、つぎのような悪影響があります。
- うつ病・自殺
- 睡眠障害
- 認知症
家族への影響
- DV・虐待
- 家庭崩壊
- 胎児・乳児への影響
- 介護問題
社会への影響
- 飲酒運転
- 失業・貧困
- 犯罪
- 未成年の飲酒
とにもかくにも、アルコール依存症は死に至る病気であることを肝に銘じるべきです。