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こんな本を読んだ 102 花嫁

本と犬

読んだ本をごく短いコメントをつけてご紹介しています。
評価は、あくまでも個人的な感想であり、取り上げた作品に対する一般的な評価を意識したものではありません。

花嫁

著者:石垣りん
評価:★★★★☆ オススメ

『ユーモアの鎖国』はkindeで比較的安価で入手できます。

 

コメント:

詩人 石垣りん さんの『花嫁』という文章をご紹介します(要約です)。

***

いつも行く小さな銭湯で私がからだを洗っていると、見かけたことのない女性がそっと身をよせてきて、「私の衿を剃って下さい」とカミソリを祈るように差し出した。

ためらっている私にカミソリを握らせたのは次のひとことだった。

「明日 私はオヨメに行くんです」

少しも図々しさを感じさせないしおらしさが細身のからだに精一杯あふれていた。

明日嫁入るという日、美容院へも行かずに済ます、ゆたかでない人間の喜びのゆたかさが湯気の中でむこう向きにうなじをたれている。

剃られながら、私より年若い彼女は、自分が病気をしたことなどを話してくれた。

お嫁にゆく そのうれしさと不安のようなものを今夜分けあう相手がいないのだ。
それで・・・

私はお礼を言いたいような気持ちでお祝いをのべ、名も聞かずハダカで別れた。

あれから幾月たったろう。初々しい花嫁さんの衿足を私の指がときどき思い出す。

彼女はいま、しあわせかしらん?

***

この文章は『日本の名随筆31 婚』(作品社)という本に所収されていました。元本は『ユーモアの鎖国』(1973)です。

まだ、日本人がみな貧しかったころのはなし。

 


【評価一覧】
★★★★★ 超オススメ・・読んだらきっといいことがあります
★★★★☆ オススメ・・自信をもっておすすめします
★★★☆☆ 興味があれば・・興味がある人にはオススメ
★★☆☆☆ 時間があれば・・ヒマを持てあましている人にはいいかも
★☆☆☆☆ 読まなくてもいいかな・・難アリなので全部は読まなくてもいいです
☆☆☆☆☆ クソ本・・読む価値なし。多分ご紹介しない